サッカーの「NO RACISM」ジェスチャーとは? FIFAが導入、スペインのラ・リーガが取り入れた腕クロスの合図を解説

Kyle Bonn

小鷹理人 Masato Odaka

サッカーの「NO RACISM」ジェスチャーとは? FIFAが導入、スペインのラ・リーガが取り入れた腕クロスの合図を解説 image

ここ10年、世界のサッカー界では効果的で広範な人種差別対策の確立が大きな課題となってきた。

FIFAは人種差別が発生した試合において「中断 → 一時停止 → 試合中止」という3段階の対応プロトコルを掲げてきたが、実際にはこの対策が期待された効果を上げていないとの批判もある。

人種差別の問題が深刻な地域のひとつがスペインプロサッカーリーグであり、黒人選手たちはスタジアム内だけでなく、SNSや日常生活においても、チャントや侮辱、その他の標的型の差別的行為を受けたと訴えている。

レアル・マドリードのスター選手、ヴィニシウス・ジュニオールはこの問題に対して声を上げており、問題が十分に対処されない限り、スペインから2030年FIFAワールドカップ開催権を剥奪すべきだとさえ主張している。

こうした訴えに、ついに行動が起こされたのかもしれない。スペインサッカー連盟(RFEF)とラ・リーガは、2024年秋にFIFAの新しい反人種差別対応策を世界で初めて採用。FIFAはこれを全世界のリーグや大会で標準化したいと考えている。

FIFAの「NO RACISM」クロスアームジェスチャーとは?

FIFAは、試合中に人種差別が発生していることを審判や選手が示すための新しいジェスチャーを導入した。

FIFAの新ガイドラインによると、選手や審判は両手首をクロスして「X」の形を作ることで、人種差別行為が起きていることを示すことができる。このジェスチャーは選手が審判に注意を促すため、また審判が観客に対して状況を説明するために使われる。

このジェスチャーが行われると、すでに定められている3段階の差別対応プロセスが即座に開始される。このジェスチャーが行われると、すでに定められている3段階の差別対応プロセスが即座に開始される。

  1. 試合を一時中断し、差別行為が止むのを待つ
  2. 差別が継続すれば試合を一時停止
  3. 改善が見られなければ試合を完全に中止

FIFAは次のように説明している。「手首をクロスすることで、選手は差別的な発言の標的になっていることを審判に直接示し、3段階の反差別プロセスが開始される」

また、審判自身が人種差別行為に気付いた場合にもこのジェスチャーを使って、プロトコルを発動していることを周知できる。

「NO RACISM」ジェスチャーはいつ、どのように使われる?

このガイドラインを採用しているリーグでは、選手が人種差別の標的になった場合にこのジェスチャーを使用することができる。

腕をクロスすることで、審判に対して差別が行われていることを直接知らせ、審判は適切な措置を取ることができる。

審判も同様に、試合中に差別的な発言があったことを観客や関係者に示すためにこのジェスチャーを使う。

この指針は基本的に新しい制度を導入するものではないが、透明性を高める効果が期待されている。視聴者にとっても差別があったことが明確になり、それによって審判に迅速な対応を促す圧力がかかることが見込まれている。

これまで、ピッチ上での差別に関する選手と審判のやりとりは見えにくく、審判が3段階の対応を行うかどうかが曖昧になることがあった。この新ジェスチャーにより、差別が発生したことが一目で分かるようになるため、対応の迅速化が期待されている。

実際、FIFAクラブワールドカップ2025において、アントニオ・リュディガーはパチューカの選手からの差別行為を審判に報告し、審判がこのジェスチャーを行ったという事例がある。

ラ・リーガとFIFAが「NO RACISM」ジェスチャーを導入したのはいつ?

スペインサッカー連盟(RFEF)は、導入時期を明確には示さなかったが、実際にはラ・リーガは2024年秋から即座にこの新しい反人種差別プロトコルを採用している。

RFEFは次のように声明を出している。「スペインサッカー連盟とラ・リーガは、バンコクで開催されたFIFA総会で承認された人種差別対応ジェスチャーを、公共インシデント対応プロトコルに組み込むことを決定した。人種差別と闘うために、引き続き連携し、効果的に取り組むことが全会一致で合意された」

スペインではこれまでにも、ラ・リーガの試合中やその周辺で多くの人種差別事件が発生している。レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオールは、そのターゲットとなることが多く、この問題に対して強く批判してきた。彼は特に、スペインが2030年W杯開催国の資格を失うべきだとする過激な提言も行っている。

2024年6月には、2023年5月にメスタージャで行われたマドリード対バレンシアの試合でヴィニシウスに対して差別行為を行った3人の男が有罪判決を受け、収監された。

ブラジル人のヴィニシウスはX(旧Twitter)で次のように述べている。

「多くの人が、気にするなとか、戦いは無駄だと言ってきた。でも、私は被害者じゃない。私は差別主義者たちの『処刑人』だ。このスペイン史上初の有罪判決は、私のためではない。全ての黒人のためのものだ。差別主義者たちは恐れ、恥じ、影に隠れるべきだ。そうでなければ、私はここで彼らを告発し続ける。ラ・リーガとレアル・マドリードの尽力に感謝する。これは始まりに過ぎない」

他のリーグでも「NO RACISM」ジェスチャーは使われているのか?

2024-2025シーズン終了時点では、他の主要リーグでこのジェスチャーを正式に採用している例はなかった。しかし、ラ・リーガが世界で初というわけではない。

このクロスアームジェスチャーは、2024年にコロンビアで開催されたFIFA U-20女子ワールドカップで初めて導入されている。

その後、FIFA主催の全大会においてこのジェスチャーが採用されており、2025年アメリカ開催のクラブワールドカップでも使用された(上述のリュディガーの例がそれにあたる)。

原文:'No racism' gesture in soccer: Explaining FIFA's cross-arm signal first introduced by La Liga in Spain
翻訳:小鷹理人(スポーティングニュース日本版)

関連記事

Kyle Bonn

Kyle Bonn is a Syracuse University broadcast journalism graduate with over a decade of experience covering soccer globally. Kyle specializes in soccer tactics and betting, with a degree in data analytics. Kyle also does TV broadcasts for Wake Forest soccer, and has had previous stops with NBC Soccer and IMG College. When not covering the game, he has long enjoyed loyalty to the New York Giants, Yankees, and Fulham. Kyle enjoys playing racquetball and video games when not watching or covering sports.

小鷹理人 Masato Odaka

スポーティングニュース日本版アシスタントエディター。埼玉県出身。南アフリカW杯を機にサッカーに魅了され、欧州サッカーを中心に幅広く観戦。大学・大学院でスポーツマネジメントを専攻し、理論と実践の両面からスポーツを追求。フットサル部では全国大会出場経験あり。趣味はスポーツ観戦でサッカー、格闘技、MLBなど幅広く観戦。NBAは現在勉強中。