マレスカ采配ズバリ チェルシーに世界一の称号をもたらした戦略とは?

コントリビューター
Kyle Bonn
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小山亮 Akira Koyama
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2025年のFIFAクラブワールドカップ決勝で、チェルシーがパリ・サンジェルマン(PSG)を3-0で下し、世界一の座に輝いた。準決勝でレアル・マドリードを4-0で撃破し、頂点に最も近いと見られていたPSGを相手に、まさかの完封勝利。しかもその戦い方は、PSGが得意とする「ハイプレス×トランジション」をそっくりそのまま逆用したものだった。

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チェルシーの指揮官エンツォ・マレスカ監督は試合後、「私はチェスの専門家ではないが、チェスは好きだ。相手の試合を分析したら、彼らの左サイドにかなり広いスペースがあることが分かったので、そこを攻められるか試してみたかったんだ」と語った。

ターゲットとなったのは左サイドのスペシャリストであるヌーノ・メンデス。今季ヨーロッパ屈指のサイドバックとして活躍した守備の要であり、さらに彼の前に位置するクヴァラツヘリアもハードワークを得意とするウィンガーだ。

モハメド・サラー、ヴィニシウス・ジュニオール、ブカヨ・サカなどこれまで多くのスターが苦戦を強いられてきたが、コール・パーマーは輝きを放っていた。

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チェルシーのジョアン・ペドロは試合後、「コール(パーマー)がいたからこそ、相手の左サイドから攻める機会が増えた。彼が試合を決定づける力を持っていることは、みんな分かっていると思う。僕は彼にスペースを与えるようにプレーし、結果的にそれがうまくいった」と振り返った。

パーマーの1点目は、右サイドでのギュストの見事な仕掛けから生まれたが、2点目は彼の独壇場だった。右サイドを突破し、ヴィティーニャとベラルドをフェイントで翻弄し、1点目と似た形でゴールを決めた。

マレスカ監督も「こういう大舞台でこそ、彼のような選手が輝く。素晴らしい仕事をしてくれた」と称賛している。

実際のゲームプランはさらに緻密なものだった。PSGの中盤が頻繁にローテーションを行いながら攻撃を仕掛けてくる点を逆手にとり、チェルシーはその裏に生まれるスペースを徹底的に突いたのである。

「相手の中盤は3人いて、そのうち2人はモイ(カイセド)、ヴィテーニャはエンソ(フェルナンデス)の担当だった。コールとマロ(ギュスト)をサイドで起用し、少しオーバーロードを狙ったんだ。これが我々のゲームプランだ。何度も言ってきたように、私は様々なゲームプランを使って、選手たちが全力を出し切れる状況を作り出すようにしている」とマレスカ監督は明かす。

それは本質的にPSGがやっていたことだ。ルイス・エンリケ監督は今シーズン、サイドとピッチ中央の両方でオーバーロードを駆使し、背後のスペースを巧みに利用することで、多くの勝利を手にしてきた。チェルシーのマレスカ監督は選手たちにPSGほどのローテーションはさせなかったものの、基本的なコンセプトは同じだった。

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さらにマレスカ監督はこう語っている。「PSGには強度の高いプレスが必要だと思った。あのチームに時間とスペースを与えれば間違いなくやられる。実際、最初の10分間は理想的な形でプレッシャーをかけられた。90分間続けるのは天候の影響もあって現実的ではなかったが、できる限りアグレッシブにいこうと選手たちに伝えていた」

実際、チェルシーは前線からの激しいプレスでPSGを封じ込み、何度もボールを奪っては鋭いカウンターに繋げた。普段ならプレス回避から生まれるスペースを活用する側のヴィティーニャが、この日は逆に繰り返しボールを失い、4度の地上戦で勝ったのはわずか1回、クロス5本はすべて失敗と、カイセドの執拗なマークに苦しめられた。

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マレスカ監督は試合後の会見で「メッセージは明確だった。試合の勝敗は最初の10分で決まったと思う。試合前には『自分たちは勝ちに来た』と相手に思わせる必要があると伝えていた」と話している。

また、守備だけでなく、GKロベルト・サンチェスのロングボールも攻撃の起点として機能していた。右サイドへ何度も展開されるパスは公式には26本中9本の成功にとどまったが、チェルシーが素早く回収する場面が多く、PSGには脅威となった。

他の多くのチームが自分たちのスタイルを貫いてPSGの圧力に屈していた中、マレスカ監督はプライドを捨て、PSGが得意とする戦術をそのまま使うことを選んだ。ボール保持率はわずか30%ながら、高い位置からのプレスと鋭いカウンターがはまり、前半だけで3ゴールを奪いきった。

ディフェンスリーダーとしてチームに貢献したDFコルウィルは、「監督が完璧な攻略法を示してくれて、それを信じてやりきった。コールが右サイドから中に入っていく動きは完全に効いていた。また、目立たないところで貢献してくれた選手も多い」と語っている。

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大胆な戦術変更、スーパースターへの信頼、そして勝利への執念。すべてを賭けたマレスカが、クラブワールドカップの栄光をチェルシーにもたらした。

原文:How did Chelsea win the Club World Cup final? Enzo Maresca trusts Cole Palmer to beat PSG at its own game
翻訳:小山亮(スポーティングニュース日本版)

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