■3年前をピークに低迷続く
大相撲の世界で戦う力士には誰しも、現役人生を左右するような試練が訪れる。今、最も岐路に立たされている力士といえるのが、西前頭16枚目として名古屋場所に臨む御嶽海だ。
御嶽海は学生横綱・アマチュア横綱の実績を引っ提げ、幕下付出10枚目として2015年春場所でデビュー。同場所、翌夏場所でそれぞれ6勝を挙げ新十両を掴むと、名古屋場所、秋場所でも2ケタをクリアしあっという間に新入幕を果たした。幕内の舞台でも着実に成長を続け、2018年名古屋場所で念願の初優勝(13勝2敗)。その後2019年秋場所(12勝3敗)、2022年初場所(13勝2敗)でも賜杯を手にすると、同場所後には大関に昇進した。
ところが、せっかく手に入れた大関の座をわずか4場所で失うと、そこから徐々に成績・番付が低下。今年も初場所で2勝、春場所で6勝と振るわず、夏場所では約10年ぶりとなる十両へ転落した。同場所では勝ち越し1場所で再入幕を果たしたものの、最低限の8勝しか挙げられておらず不安は拭えない。そのような状況の中、名古屋場所では2024年夏場所から1年遠ざかっている幕内での勝ち越しを目指すことになる。
■横綱経験者も唸らせた強みが失われているワケは
大関に上がるまでの御嶽海は、鋭い立ち合いからの速攻相撲で並みいる力士を打ち破ってきた。相手との距離の取り方、詰め方も抜群に上手く、大関昇進当時の報道では鶴竜親方(元横綱、現音羽山親方)から天性のものと評されたことも伝えられている。
ただ、最近の御嶽海の相撲からは、横綱経験者をも唸らせた強みが失われているように見える。今年初場所の9日目・翠富士戦では体格で劣る相手(御嶽海は身長182センチ・体重170キロ、翠富士は174センチ・114キロ)に立ち合いあっさりもろ差しを許すと、両腕を抱えながらの小手投げに下手投げを合わされて敗れるという相撲があったが、これも圧力の低下を感じさせる一番だろう。
本調子から遠ざかっている原因についてだが、まず第一にコンディション不良の可能性が考えられる。御嶽海は2024年九州場所6日目・琴勝峰戦で、相手を突き落としで下した際に自らも土俵下へ転落。左肩や腰を強く打ち付けた影響で起き上がれず、担架に乗せられ救急搬送されるというアクシデントに見舞われている。同日から今年夏場所まで故障休場はしていないが、この時の負傷が尾を引いているのではないか。
また、御嶽海は以前から稽古熱心なタイプの力士ではないことで知られるが、これも32歳となった現在の相撲に影響しているかもしれない。角界では「三年先の稽古」という言葉もあるように、未来を見据えてしっかり稽古を積んでいくことが強くなるためには必要不可欠とされているが、今の御嶽海は過去の稽古の貯金が底を尽きかけているという可能性もゼロではなさそうだ。
■押し出しが復調のバロメーターに?
現在の幕内には御嶽海の他に、関脇・霧島、小結・高安、平幕・正代と3名の大関経験者がいる。それぞれ状況は違えど、大関の座を失った後も懸命な戦いを続ける3名に負けないよう、御嶽海も名古屋場所で復調のきっかけを掴みたいところだ。
復調のバロメーターになりそうなのが、御嶽海が得意とする押し相撲の基本技である押し出しの頻度。今年ここまで幕内で挙げた8勝の内、押し出しで勝った相撲はゼロ。一方、大関昇進を決めた2022年初場所では13勝中7勝、十両で勝ち越した先場所も8勝中5勝が押し出しによるものだった。押し出しでの勝利が増えてくれば、自身の得意な形で相撲をとれるようになってきていると判断してもいいのではないだろうか。
悲願の初優勝を果たした2018年の名古屋場所から早7年。酸いも甘いも知った元大関が、低迷のトンネルを抜け出せるかは要注目だ。