2025年春のセンバツで頂点に立った横浜高校。『平成の怪物』松坂大輔を擁して成し遂げた、1998年以来2度目の「春夏連覇」への挑戦が、いよいよ始まる。
春夏連覇を達成すれば史上9チーム目。さらに同一校の複数回春夏連覇は大阪桐蔭(2012年・2018年)以来、史上2校目の偉業となる。
夏の甲子園出場をかけた全国屈指の激戦区神奈川大会を前に、チームの強みと課題を整理する。
センバツ優勝で見せた完成度の高さ
春のセンバツで横浜高校は、全5試合を通じて盤石の戦いぶりを見せた。特に注目されたのは、低反発バット導入2年目にもかかわらず落ちることのなかった打撃力。チーム打率は3割を超え、状況に応じたバッティングと機動力を絡めた攻撃で、相手投手陣を攻略した。
さらに5試合は全て継投策。奥村頼人・織田翔希の両投手を中心に、現代の高校野球らしい総合力で勝ち切ってみせた。
こうした完成度の高さは、センバツ終了後に行われたU-18日本代表候補合宿に阿部葉太主将ら4名が選出されたことにも現れている。個の能力に加え、組織的な野球が全国トップレベルにあることを示す大会となった。
専大松戸に敗れ公式戦連勝が「27」でストップ
横浜は、昨秋から無敗のままセンバツを制し、春の関東大会準々決勝まで含めて公式戦27連勝を記録していた。しかし5月24日、関東大会準決勝で専大松戸に3−4で敗れ、連勝はストップ。
この試合では主将阿部葉太外野手がスタメンを外れ、エースで4番の奥村頼人投手も代打での出場のみ。チームの主軸が不在の中、この黒星は原点に立ち返るきっかけとなり得る、意味のある敗戦だったともいえる。
秋の明治神宮大会や春の甲子園の成功があったからこそ、ここでの黒星は夏へ向けたチーム力の向上を促す良いタイミング。過去、春夏連覇を成し遂げたチームの多くが、夏前に苦戦や敗戦を経験している点も興味深い。
夏へ向けての新戦力と選手層の厚み
センバツから数ヶ月を経て、チームには新たな戦力も台頭してきている。先日の春の関東大会では主軸が不在の中、ベスト4まで駒を進めた。チームとしての底上げが試される中で、選手層の厚さを改めて感じさせた。
特に夏の大会は地方予選・甲子園ともに過密日程。継投で勝ち上がっていくチームスタイルなだけに、新たに登板機会を得た投手たちが持ち味を発揮できれば、全体の底上げにもつながる。
東海大相模ら強豪ひしめく激戦区 神奈川大会の行方
春の関東大会は準決勝で敗れはしたものの、横浜はすでに神奈川大会の第1シードを獲得。とはいえ、神奈川は言わずと知れた“全国屈指の激戦区”であり、予断を許さない。
対抗の筆頭となるのは昨夏、神奈川大会を制した東海大相模。この世代では秋・春ともに神奈川県大会の決勝で対戦。いずれも接戦で横浜が勝利している。
その東海大相模とは別ブロックに。そのほかノーシードの実力校桐蔭学園・慶應義塾・横浜商業らも別ブロックに集中。やや組み合わせに恵まれた印象だが、一筋縄では行かない。
横浜はここ2年、決勝で慶應義塾・東海大相模にいずれも僅差で敗れている。接戦を制しきれなかった経験をどう生かすかが問われる夏でもある。
阿部葉太主将が背負う「悔しさの記憶」
その敗戦を、最も強く胸に刻んでいるのが主将阿部葉太外野手。1年時から出場を続け、あと一歩で甲子園出場を逃した経験を持つ彼にとって、この夏は“リベンジの場”でもある。
勝ち切れなかった試合、あと一本が出なかった打席。その積み重ねが、精神的なタフさとしてチームに還元されるか。勝負どころでの主将のリーダーシップに注目が集まる。
松坂世代以来の偉業へ──求められる「要素」
横浜高校の春夏連覇といえば、真っ先に挙げられるのが1998年の『松坂世代』。公式戦44連勝を記録し、現在でも高校野球の歴代最強チームと称されている。
しかしその松坂世代ですら夏の甲子園では準々決勝・PL学園と延長17回の死闘や準決勝・明徳義塾戦での大逆転劇など、決して順調な道のりではなかった。「最強」であっても、“紙一重の勝利”を繰り返していたのが実際だ。
映像やデータ解析が発達した現代の高校野球において、個々の能力や完成度だけで勝ち抜けるほど、地方予選や甲子園は甘くない。一発勝負が問われる夏は、接戦をものにする底力や、一体感が何より求められる。
2度目の春夏連覇へ──問われる「強さの本質」
センバツ優勝という実績は、紛れもなく横浜高校の力を証明した。しかし、春と夏では戦い方も、重圧も大きく異なる。春の優勝があったからこそ、夏はさらに厳しいマークが予想される。
激戦区神奈川という高い壁を越え、甲子園の地で再び勝ち抜くためには、技術以上に“心の準備”と”柔軟な対応力”が問われることになる。
果たして、横浜は春夏連覇達成となるか。歴史的偉業への挑戦は、間もなく始まる。