スーパーバンタム級で井上尚弥を待つライバルたち|杉浦大介BOXコラム

杉浦大介 Daisuke Sugiura

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バンタム級4団体統一戦を間近にする井上尚弥。この一戦に勝利すれば、4つ目の階級となるスーパーバンタム級で新たな挑戦に進むと見られている。

NBA、MLB、そしてボクシングなど長年、北米を中心に現場取材を続ける杉浦大介氏が、スーパーバンタム級で待つライバルたちを紹介する。

 

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筆頭候補のフルトン、アフマダリエフとの早期マッチアップはやや困難?

WBAスーパー・WBC・IBF世界バンタム級王者、井上尚弥(大橋)にとってバンタム級での“最後の一戦”が間近に迫っている。12月13日、“モンスター”は有明アリーナでWBO同級王者ポール・バトラー(英国)と対戦し、勝てば日本初の4団体統一王者が誕生する。井上は今戦がバンタム級でのラストファイトと公言しており、ひとつの大きな節目だといえよう。

実際に首尾良くバトラー戦を終えれば、井上には“118パウンド=バンタム級”でやり残しはなくなる。現時点ですでにバトラー戦よりも、井上がスーパーバンタム級でどんな戦いをするのかの方をより楽しみにしているファンも多いのではないか。

実はスーパーバンタム級に目をやっても、必ずしも多くの強豪がひしめいているというわけではない。現在のこの階級はいわゆる“トップヘビー”。WBAスーパー・IBF世界Sバンタム級王者ムロジョン・“MJ”・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、WBC・WBO同級王者スティーブン・フルトン(米国)という2人の統一王者が頂点に君臨し、どちらも無敗の両雄が実績面で3番手以下を大きく引き離している。

このなかで、井上にとって最も難しい相手になる可能性があるのはやはりフルトンか。21戦全勝(8KO)のフルトンはスキルに恵まれたスピードスターで、長距離走が得意でスタミナも万全。何より、身長169cm、リーチ178cm(井上は身長165cm、リーチ171cm)とサイズで井上を明白に上回っているのが目を引く。もともとライトフライ級からプロキャリアをスタートさせた井上と比べ、フルトンはスーパーバンタム級から始め、これからさらに上に上がっていこうという選手。両者の骨格の違いは明白であり、実際にリングで向かい合った際の身体の厚みにはかなり大きな差があるはずだ。

「井上は素晴らしい選手で、スキルに恵まれている。パワーもあるが、スーパーバンタム級までそれを持ち込めるかどうかはわからない。とくに俺はスーパーバンタム級のなかでも大柄で、ほかの選手よりも耐久力があるということだ」

フルトンはそう述べ、かねてから「井上は自分に勝つには小さすぎる」と大胆にも明言してきた。年齢的にも28歳と今がピークの黒人ボクサーは、アウトボクシングだけでなく、インファイトもこなす万能派。『リングマガジン(The Ring誌)』のダグラス・フィッシャー編集長、全米記者協会副会長を務める『Boxingscne.com』のジェイク・ドノバン記者といったアメリカの重鎮ライターたちも、井上対フルトンこそがスーパーバンタム級最高のカードになると述べてきた(2人とも井上が有利と予想)。井上は『トップランク』、フルトンは『PBC』というプロモーターの違いもあって交渉は容易ではないものの、なんとか実現させて欲しい軽量級の黄金カードである。

ただ……前述通り、この階級でも大柄なフルトンはすでにフェザー級転向を画策している。WBCはフルトンとブランドン・フィゲロア(米国)のリマッチを WBC暫定王者決定戦として承認。昇級はとりあえず1戦のみの可能性もあるものの、一度(階級を)上がったらまた下げてくることはやはり考えにくい。いずれフェザー級でという可能性は残るが、スーパーバンタム級でのフルトン対井上戦の挙行のために残された時間は多くはないのが事実であろう。

一方、アフマダリエフはウズベキスタンのアマチュア出身の強豪であり、こちらもスキル、パワーを兼備したダイナミックな好選手だ。プロでは11戦全勝(8KO)。アフマダリエフはその気になればバンタム級でも戦えるということで、昇級の予定はしばらくなさそうだ。

「井上は本当に素晴らしいボクサー。彼と戦えるのであればスーパーバンタム級でなくても構いません。偉大な井上との対戦は必ず実現させたいですね」

6月25日、ロニー・リオス(米国)とのWBA指名戦に12回KO勝ちを飾ったあと、アフマダリエフは改めて井上との対戦を希望する言葉を残していた。

所属する『マッチルーム・スポーツ』はそれほど派手にこの選手を売り出す気はないようで、井上戦のために『トップランク/ESPN』への貸し出しは可能だろう。それらの事情を考慮すると、井上のスーパーバンタム級での現実的なトップターゲットになりそうなのはアフマダリエフかもしれない。

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昇級直後はウォーミングアップマッチ? あの悪童の名前も

もっとも、アフマダリエフはリオス戦で左拳を骨折したために現在療養中。同時にIBFからマーロン・タパレス(フィリピン)の指名戦を義務付けられており、同王座を保持したいのであれば復帰後はタパレス戦を優先せねばならない。アフマダリエフもまた4団体統一を大目標に掲げており、IBF王座を返上しての井上戦優先は考え難く、モンスターとの決戦は少し先か。

そうなってくると、井上はスーパーバンタム級でのタイトル挑戦前に前哨戦をこなすことも視界に入ってくるのだろうか。『リングマガジン』の同級ランキングを見渡すと、1位フルトン、2位アフマダリエフの後、3位は無敗のライース・アリーム(米国)、4位は井上のロサンゼルス修行の際にスパーリングパートナーも務めたアザト・ホバニシアン(アルメニア)、5位はタパレス、6位は日本と因縁の深いルイス・ネリと続いていく。

以降、7位がリオス、8位は薬物使用が発覚したゾラニ・テテ(南アフリカ)、9位はアリームに敗れたばかりのマイク・プラニア(フィリピン)、10位は(井上の弟である)井上拓真(大橋)がランクされており、必ずしも層が厚い陣容ではないというのが正直なところだ。

ここで注目すべきは、フルトンのフェザー級転向も予想される状況下で、WBCからネリ対ホバニシアン、アリーム対アラン・ピカソ(メキシコ)という2カードのエリミネーター指令が出たことだ。この2戦の勝者がファイナル・エリミネーターに進むのが基本線。フルトンがフェザー級に定着するのであれば、ファイナル・エリミネーターのカードが空位の王座決定戦になる方向という。

世界王座統括団体からの“指令”には強制力があるわけではなく、実際には“提案”に等しい。ネリ対ホバシニアン戦は来月、ライアン・ガルシア(米国)対メルシト・ヘスタ(フィリピン)戦のアンダーに組み込まれる方向というが、アリームはPBC傘下ということもあって、トーナメントが予定通りに進んでいく保証はない。そして、メンバー変更の可能性も十分あるこのグループのなかに、昇級後の井上が組み込まれても不思議はない。

ネリがホバシニアンを下し、アリームとピカソが想定通りに進まなかったとしたら? その場合には、スーパーバンタム級に上がってきた井上がシードのような形で入り、ネリとWBC王座を争うような構図も見えてくる。日本にはこのカードに抵抗感のあるファンも多いだろうが、“禁断の一戦”が挙行となれば、大きな話題を呼ぶことは間違いないのだろう。

前述したとおり、スーパーバンタム級に上げて以降の井上にはビッグカードのオプションが必ずしも豊富にあるわけではない。ただ、幾つかのマッチアップは危険な香りが漂い、好ファイトを期待をさせるのに十分。井上が見せてくれる“新たな景色”は、今後もファンに魅力を感じさせるものであり続けそうだ。


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杉浦大介 Daisuke Sugiura

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東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。