Bリーグ2024-2025のB2プレーオフ・セミファイナルで、アルティーリ千葉が信州ブレイブウォリアーズを2連勝で下し、初のB1昇格を決めた(2025年5月10、11日@千葉ポートアリーナ)。
アルティーリ千葉は2021-22シーズンにBリーグに参入。1年でB3からB2に昇格したが、続く2シーズンはレギュラーシーズン東地区で独走するも、プレーオフではともにセミファイナルで敗退。昨季のレギュラーシーズン56勝4敗(勝率.933)に代表されるように圧倒的な強さを誇りながら、B1昇格の道を断たれてきた。
その悔しさを引きずることなく今季も開幕から白星街道を突っ張り、Bリーグ(B1からB3)のレギュラーシーズン歴代最高勝率となる.950(57勝3敗)をマーク。プレーオフ・クォーターファイナル(初戦)では熊本ヴォルターズに2連勝で勝ち上がっていた。
ここではアルティーリ千葉のアンドレ・レマニスHC(ヘッドコーチ)、主将の大塚裕土をはじめ、悲願のB1昇格を決めたセミファイナル後のメンバーたちの声を紹介する。
レマニスHC「価値あるものは、すべてを手に入れることは難しい。難しくなければ、みんなが手にしている」
アルティーリ千葉をチーム創設時から指揮をとってきたレマニスHCは、試合後の会見ではすぐに言葉を発しない。しばし熟考してから言葉を発する。その姿は哲学者のようでもあると感じていたが、B1昇格を決めた直後の第一声が「価値あるものは、すべてを手に入れることは難しい。難しくなければみんなが手にしているし、みんなが成功を収める世の中になっている」というもの。レマニスHCらしさを感じさせるものだった。
ただ、ついにB1昇格という目標を達成したことにはほっとした様子。柔らかい表情で、素直な気持ちと周囲への感謝の気持ちを言葉にした。
「コーチとしては不思議な気持ちで、うれしいというより、ほっとしています。ようやくここまで達成できたと思うし、いつも戦っている人たちが喜ぶ姿を見られることがうれしいです」
「まだチーム創設から4年しか経っていませんが、これまでこのチームに多くの人たちが関わってきました。多くのスタッフもそうですし、今日、過去に所属していた選手がこの瞬間を見たいと時間をかけて来てくれましたけど、みんなが関わってくれたからこそ、達成できた。また、彼ら(過去にいた選手)が来てくれたことは、クラブの魅力を証明することですし、多くの人に伝わるのではないかと思います」
「昨シーズン、レギュラーシーズンをトップで終えてB1昇格を果たせなかった部分だけを見ると、普通ならコーチ、選手を大幅に入れ替えるのがマネジメント側の判断になると思いますが、その真逆の判断をして、今まで積み上げて来たことを信じてくれた。そして今季、また新しいものを積み上げ、結果を出してことで恩返しができたと思います」
「あと、A-XX(アックス/アルティーリ千葉のブースターの愛称)の皆さんのほとんどがこの4年間、B3の時から一緒に戦ってくれた方が多かったと思います。取材に来ていただいたメディアの皆さんも含めてサポートしていただいたことはうれしいですし、喜びを分かち合いたいと思います」
そして会見の最後を、レマニスHCは自ら人生観を交えながらこの4年間の歩みを振り返り、こう締め括った。
「英語の諺にあることですが、人生で苦しいことは組織でも個人でもあると思いますけど、それにどのように対応するのかが大切なのです。それに対して戦うのか、それともあきらめるのか。
このクラブには何度もあきらめかけるようなことがあったと思います。この舞台に戻ってくるために12カ月も昨季からあって、毎日練習もありますし、体調不良もあり、コンディション調整をしなければならない時もありました。遠征も30試合ありました。その中でチームのフロント、選手もコーチも、スタッフもアックスの皆さんも戦ってこられたのが、この組織の強さを表していると思います」
レマニスHCは、2013年からオーストラリア男子代表のHCを務め、2016年リオ五輪ではメダルにあと一歩届かなかったが、チームを同国史上最高の4位の成績に導いた名将である。
大塚裕土「泣く感じでは全然なかったんですけど、なんか、長かったな、と」
チーム創設から主将を務めてきた37歳の大塚裕土は、試合終了を告げるブザーが鳴ると、目に光るものがあった。
「試合が終わる直前までは泣く感じでは全然なかったんですけど、なんか、(これまで)長かったな、と。(今までのことが)フラッシュバックして。周りの選手が寄って来てくれて、声をかけてくれて、自然と涙が出た感じです。今日も創設時にチームに関わったメンバーが来ていましたけど、ゼロからイチにすることが大変だったんです。そのことがフラッシュバックのなかの大部分だったので(涙が出た)」
個人としては2年連続B2の3ポイント成功率リーダーに。確かなスタッツを残したが、今季からは控えに回り、なおかつプレータイムが減る難しい状況のなか、自身が思うようなパフォーマンスを見せられなかった部分に、思うところがある様子だった。
「思うようにプレーできない、まだまだ自分にも足りないことがたくさんあるなと感じた(プレーオフ)4試合でした。シーズンを通して点差が離れてもコーチに使わなきゃいけないという状況を作れなかった自分に悔しさが残ります。公式戦60試合、天皇杯も含めてずっともがいている感じでしょうか。まだ試合(ファイナル)があるので、そこでいいパフォーマンスができるようにしたいです」
「コミュニケーションの部分では、毎年ベテランとして勉強させてもらっています。学ばせてもらっているだけではなく、トライ&エラーしながら、チームとともに成長させてもらっていることは感じています」
アシュリー「3年間、血も涙も汗も、流してきた」
大黒柱としてチームの成長に大きく貢献してきたブランドン・アシュリーも感涙に浸った。在籍3年目。多くの悔しい思いを重ねながらも、オールラウンドなプレーでその存在を知らしめてきた。
「この3年間は本当に長かった。血も涙も汗も流してきたので。なので、ようやくほっとできました」
「ここ千葉は自分の第2の故郷みたいになった。チームも、ファンも、スタッフも好きだし、この3年間、B1昇格という目標を目指して一緒にやってこれたことはよかったです」
前田怜緒「よくわからない感情になってしまって」
高い身体能力を活かした攻守が武器の前田怜緒はB1昇格を決めた第2戦、勝敗がほぼ決した状況での試合残り36秒でのタイムアウトでベンチに座ると、思わず頭からタオルを被り、顔を覆っていた。試合再開の合図が鳴っても感情を抑えきることができず。チームメートは笑顔でそんな前田の背中を叩きながら、コートへと促していた。
「ラスト2ポゼッションくらいの時に、裕さん(大塚裕土)とか、(長谷川)智也さんとか、アンドレ(レマニスHC)の顔を見ていたら、なんか、よくわからない感情になってしまって。涙が止まらなくなってしまいました」
杉本慶「(昨季は)越谷に負けたのか、長谷川智也に負けたのか」
先発PGとして存在感を発揮して来た32歳の杉本慶は、今季セミファイナルを突破してB1昇格を果たした要因について問われると、「プレーオフは、こうだ! というのをチームに植えつけたのは、長谷川智也だったんです、ほんまに」と回答。
長谷川は過去4年間、越谷アルファーズに在籍。昨季はプレーオフでアルティーリ千葉を下しB1昇格を果たした越谷から移籍してきたが、決してコートに立つ時間は多くなかった。それでも、長谷川の存在感は勝因に挙げるほど、チームにとって大きなものだったのだろう。
杉本は「たとえばシーズン中でも、(週末同一カード2連戦の)初戦に勝つことがプレーオフに絶対繋がるから、と言い聞かせ続けてきた。僕らは昨季までセミファイナルの初戦に勝ててなかったので、大きかったと思います」と説明すると、最後にこう締め括った」
「確かに(昨季は)越谷に負けたんですけど、越谷に負けたのか、長谷川智也に負けたのか、わからないくらい、彼のプレーオフメンタリティはすごいんです」
木田貴明「いいんじゃないですかね、選手はずっとバスケ大好き少年で」
チーム在籍3年目、今年で30歳になる木田貴明も主要メンバーとして貢献して来たひとり。3年前に熊本ヴォルターズから移籍し、チームの成長、B1昇格を阻まれた苦しい時期を経験しながら、B1昇格までたどり着いた。
その過程において、「自身も成長して、大人になったという実感はあるのか?」という問いに対して、「大人」という言葉に強く反応したのか、「大人にはなっていないですね。でもいいんじゃないですかね、選手はずっとバスケ大好き少年で」と返答。続けて、「ただ、だいぶ自分の気持ちを抑えられるようにはなったと思います」。
ただ、その言葉を発している木田の横顔を、杉本が“本当か?”というニュアンスが込められた表情で見ているのが印象的だった!?
今週末、5月17日(土)から本拠地・千葉ポートアリーナで行なわれるB2プレーオフ・ファイナル。アルティーリ千葉は富山グラウジーズを迎え、B1昇格チーム同士でB2王座をかけて対戦する。
「今シーズンはB1昇格だけでなく、B2制覇を目標に戦ってきた」とレマニスHC。ちなみに今季は開幕からホーム千葉ポートアリーナでは負けなしの34連勝中。最後まで勝ち続けて、有終の美を飾るつもりだ。